やさしい手のひら・後編
「健太、健太・・・」

私は泣きながら何度も健太の名前を呼んだ

突然電話をして、勝手に泣いて・・・きっと健太は困っているよね

でも健太は何も言わず私が泣き止むまで待っていてくれる

「大丈夫か?」

鼻を啜りながら、

「うん・・・」

「何かあったんだろ?」

「聞きたいことが・・・あるの」

「どうした?」

健太の顔が見えないだけ救われていた。きっと目の前にいたら私は聞けなかっただろう

「佐原樹里と・・・結婚・・・するの?」

どんな返事が返ってくるのか、私は不安でいっぱいだった

もし「そうだよ」って言われたら、私はどうしたらいい?

おめでとうなんて言えない。言いたくない。言える訳がない

「亜美、会えないか?」

思ってもいなかった一言に私は

「会わないと答えてくれないの?」

会えることが嬉しいのに素直に嬉しいと言えず、遠回りのことを聞いてしまった

「会って直接話したい」

「でもまた・・・佐原樹里が・・・」

「大丈夫だから」

健太はそう言った

いつも必ず現れる佐原樹里が怖かった。またどこからか現れて話も出来ないまま別れてしまうのはもう嫌だ

「明日、幼稚園の近くの公園で待ってる」

「でも・・・」

会いたい

会ってすべてのことを聞きたい。だから私は

「仕事終わったら、あの公園に行くね」

そう言った

「急がなくていいから。ずっと待ってるから」

「うん」

「じゃ、明日来いよ」

「ごめんね・・・突然電話して・・・」

「亜美が電話してこなくても、俺がしてたかもしれない」

そんな言葉に胸が痛み出す

「明日ね」

「おぉ」

そう言って私達は電話を切った

耳に健太の声が残り、愛しいと感じてしまう

会って何かが変るのなら、私は会いたい。会って本当のことを知りたい

辛い思いをするかもしれないけど、聞かなきゃいけないんだ





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