やさしい手のひら・後編
勤務が終わる時間に近付くほど、心臓の鼓動が大きくなっていく

待っていると言ってくれたけど、内心不安だった

もしかしたら佐原樹里に見つかっているかも・・・

悪い方へ悪い方へと私の想像が膨らんでいく

私は久しぶりにスカートを履いていた

仕事が忙しく、楽なジーパンばかり履いていたが、今日は健太に会うため昨日から何度も鏡を見ては着ていく服を悩んでいた

「亜美先生、スカート珍しいね」

私のスカートに気付いたのは夏希先生だった

「そうですか」

「デートかな?」

「違いますよ」

クスクスと夏希先生は笑い

「頑張ってね」

そう言って先に帰って行った

私もその後に続き幼稚園から出る

秋らしく、乾いた風が私の肌を突く。私はジャケットの襟を立てて公園に向った

更に激しく心臓が飛び跳ねている

どのくらい会っていないのかな・・・

嬉しくって早歩きになっていることさえ自分で気付いていない

信号の向こうにはもう公園

早く信号が変らないかと体が落ち着かない

あともう少しで会える

信号が変って私は目の前の公園に向かって歩き出した

「いた・・・」

健太がいた。私は立ち止まってしまった

車の前でタバコを吸っている。あの横顔を見ていると懐かしさが一気に込み上げ、私の心臓は激しく音を立て始めた

私は胸元を掴み、息を吸い、そして息を吐き出した

健太の姿が霞んで見えてくる

私の視界は涙のせいで健太を見えなくしていた

こんなに人を好きになるのは生涯、健太だけなのかもしれない・・・

新くんをこんな気持ちで思ったことなど一度もなかった

私は新くんでもなく、凌でもなく健太がいればそれでいいんだ

そんな自分にやっと今、気付いてしまった

でも・・・新くんとは別れられない・・・

私が一番知っている答えだった




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