やさしい手のひら・後編
「亜美…痩せたんじゃないか」

そう言って、健太の手が私の頬に近付いた

でも健太は手を下へ降ろしてしまった。そして拳を握っている

そんな姿に目を伏せたくなる

心が苦しい、そして淋しい

「車乗って」

「う、うん」

健太に言われた通り私は車に乗った

乗った瞬間からあの頃と変わらない匂いが私の鼻に入ってきた

懐かしい。匂いは変わっていなくても私達の道は変わってしまった

一つ一つのことが、懐かしくて、私は涙を堪えて唇を噛み締めていた

「時間大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

「ちょっと走るな」

どこに行くのだろう

シーンとした車内に沈黙が続く

ビルの建物が少なくなり、都内から少しずつ離れていく

私は健太の顔を見ることができなくて、流れる景色を眺めていた




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