やさしい手のひら・後編
それから私は新くんの車に乗り、どこへ行くのかわからないまま窓の外を見ていた

やっと少しだけ健太を忘れかけていたのに、さっきの言葉でまた健太が蘇る

どうして「おめでとう」なんて言ったの…?

どうしてほっといてくれないの?

あんなことぐらいで舞い上がり、あとになって切なくなる

健太の一つ一つの言葉と行動で私の心は歪んでしまう

そんな健太に腹が立ち、そして自分にも腹が立つ

「着いたよ」

「あ…ここ」

新くんのおじさんのお店だった

「こんばんは」

新くんが中に入り、私も後に着いていく

「久しぶりだな」

外人のおじさんはブルーの瞳で笑った

「亜美ちゃん、いらっしゃい」

「お久しぶりです」

「よく来てくれたね。ゆっくりして行きなさい」

「はい」

「一番奥に座るから」

カウンターを避け、おじさんの視界から離れた席に座った

「何食べる?好きな物注文すれよ」

「う…ん」

今はあまり食べれないと思い

「オレンジジュース」

と、私が言うと

「はあ?お前誕生日だろ?他にも注文すれよ」

「だって…食欲ないんだもん」

「じゃあ、ケーキにする?」

「ケーキあるの?」

「待ってろ」

そう言って新くんが席を立ち、おじさんのいる方へ行ってしまった

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