やさしい手のひら・後編
スタジオに入ると久しぶりに緊張し出した

最後という思いが私を脅かすかのように体が硬くなっていくのがわかる

心臓がドキドキ音を立てていて、鳥肌が立ってくる

「お前緊張してるだろ」

意地悪そうに言うけど瞳は優しくて、なんとなく緊張が解けて行く

「だって最後だし、失敗できないし」

「俺がいるから大丈夫」

そう言って笑いながら私の手を繋いでくれる

だから私は手を握る

「お前がここからいなくなるのは寂しいな」

スタジオの入り口からセットの方を見て新くんは呟いた

「ここでお前に会って、お前を好きになって・・・」

真っ直ぐ見つめる新くんの目を私はずっと見ていた

「ごめんね・・・続けれなくて」

小さくため息をついた新くんが

「幼稚園の先生になれたんだから、俺はそれで嬉しいし、モデルを辞めるからって俺らが終わる訳じゃないだろ?」

「そうだけど・・・」

「あー、もうそうやってすぐ悲しい顔する」

私と向かい合った新くんが私の頬を挟んで

「今日は笑って仕事しような」

新くんのその笑顔を見てドキッとしてしまう

こんなに私を思ってくれているその気持ちが嬉しい

「うん」

「よし、行こう」

手を取り合ってセットに入り、最後のモデルの仕事に集中した

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