やさしい手のひら・後編
走りながら何度も

「健太、健太…」

そう呟いていた

私はエレベーターの前でさっきまで抱かれていた自分の腕を触る

健太の感触がまだ腕に残っている

健太の温もりが恋しい

好きなのに…こんなに好きなのに…

別れた理由も聞かないままになってしまった

でも聞いても聞かなくも二度と戻ることができない

それがわかっただけでいい

もう健太とやり直す夢も希望もない。私の未来には健太といることなど存在しない

エレベーターから降り歩いていると、さっきの噴水に来ていた

そして噴水の前のベンチには俯いた新くんが座っていた

私は新くんになんて顔をさせているんだろう

新くんを見て我に返る

私には新くんがいるということを…

だから今日あった健太とのことは自分の胸に閉まっておこう…

言わなきゃ新くんを苦しめない

ずるいかもしれない

卑怯かもしれない

でも…

それが私にとっても新くんにとっても幸せなんじゃないかって思ったんだ…


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