やさしい手のひら・後編
健太の隣には着飾った佐原樹里が、健太の腕にしっかりとしがみついていた

その姿に思わず目を逸らし、違う所を見るふりをする

さっきまで健太といたことが、幻なのかと思うぐらい、私と健太の間には計り知れない距離があった

二人の姿を見ていると健太が言った言葉が頭を過る

「もう無理なんだ」

喉から切なさが込み上げ、今にも泣きそうな自分を必死で押し殺すことに、私は精一杯だった

「気分悪いのか?」

新くんが心配そうな顔で私を見る

気付かれてはいけない

「ううん。大丈夫だよ」

新くんはちょっとだけ首を傾げて

「もう少しで帰るから」

「うん」

もうちょっとの我慢。あと少しで帰れる

私は新くんと一緒に関係者の人達に挨拶をしていた

新くんがいろいろな人に挨拶をして周る。相手の人が誰なのかわからない。でも事務所の代表で来ている以上きちん挨拶をしなければならない

笑顔で頭を下げながら一秒でも早くここから出たい、そう思っていた

「健太ぁ、こっち、こっち」

人混みの向こうからまたあの声が私の耳に聞こえてきた

佐原樹里の声

聞きたくないのに声がだんだん大きくなっていくのがわかる

私の近くにいる・・・

「あなたも来てたのね」

佐原樹里が私に声を掛けてきた

「健太ぁ、ほら亜美ちゃんいるよ」

わざとらしい

ベタベタ健太の腕を触り、いかにも私に見せ付けているかのような自慢の顔

胃がチクチク痛み出す

佐原樹里が健太をひっぱて来て、私達の前に立っている

「新、来てくれてありがとうな」

健太が新くんに言うと

「仕事だから」

健太と会話をしたくないのか新くんは冷たい態度で答えた

「亜美もありがとうな」

何もなかったかのような顔で健太は私に言う

もうこの空気が嫌だ

嫌だと思うほど胃が痛くなる



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