やさしい手のひら・後編
「俺が何も気付かないと思ったか?」

新くんの声がだんだん低くくなっていくのがわかる

私は膝の上で汗ばむ手を握る

「黙ってないで答えろよ!」

大きな声を出されて、私の肩がビクッと縮こまる

新くんをこんなに怒らせてしまったのは初めてだった

私は小刻みに震えだす足を気付かれないように力を入れる

「泣いていたのは…」

頭の中で次に言う言葉を探し

「足が痛かったことと…久しぶりに昔の話になって…」

「もういい」

新くんは立ち上がり、車のキーを持った

「今日は帰れ」

「新…くん、待って…」

今にも泣きそうな私は新くんを追い掛けた

「少し頭冷やせ」

そう言って玄関に向かって行く

「やだ…帰ら…ない」

咄嗟に新くんの腕を掴んで呼び止めた

「俺が辛いんだ」

背中を向けたまま新くんはか細い声で言った

それを聞いた瞬間、私の目から涙が零れた

こんなにも新くんを苦しめてしまった

私はいつも笑っている笑顔を取り上げてしまったんだ



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