夏恋
自室に戻った裕也は電気をつけると今度の練習試合のフォーメーションを考えることにした。相手は決して手強い敵ではないが、次の大会への大きな足かけになるはずだ。考え始めると時間の経つのも忘れ、あらかた考えが固まりだした時は既に11時を回っていた。
「明日も学校だし、軽く飯食って寝るか」
一つ大きな伸びをして部屋を出ようとした時だった。
「コンコン…」
裕也は振り向いた。今の音は…
「コンコン…」
やっぱり間違いない。数年ぶりのあの音だ。聞きたくても聞けなかったあの音。裕也はしばらく動けなかった。彩が離れてから何度も夢を見た。音がして、窓を開くと彩がいる…そんな夢を。今唐突に現実になると、裕也はどうしていいか、迷ってしまった。
「コンコン…」
音は執拗に、しかしどこか遠慮がちに間隔を空けて裕也の胸に響く。出よう。裕也はゆっくり窓に向かった。
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