夏恋

「ガラガラガラ…」
窓ガラスを開けると窓枠の桟に腰掛け、こっちを見ている彩の姿があった。
「…遅いよ」
「わりぃわりぃ、ちょっと用があって」
「そう…。」
いつもの彩とは違って妙に元気がなかった。少しの沈黙の後、彩が突然話し始めた。
「ゆう君、実は明日…」「知ってるよ。」
「…へ?」
「引っ越すんだろ?母ちゃんから聞いた」
「…そっか…」
また沈黙になった。裕也はさっきの怒りはどこへやら、今どんな言葉をかけるべきか必死で探していた。
「ま、そうゆうこと!」
彩が一際声を大きく出し、沈黙を破った。
「お父さんの転勤でね。ま、仕方ないんだけど。私がいなくなるからって泣いたりしないでよね!」
「バカ!そんなことあるわけねぇだろ。」
彩の後ろに見える部屋には段ボールが積まれている。どうして気付かなかったんだろう…。
「ゆう君ってさ、昔からすぐ泣いてたもんね」
「うるさいなぁ!昔と今は違うじゃん」
「そうかなぁ～?」
二人は目が合い、声を上げて笑った。こんな時に、今まで忘れていた彩との他愛もない思い出が裕也の頭に浮かんでは消える。
「…あ。」
彩が見上げながら声を上げる。つられて裕也も顔を上げると、無数の星々が屋根の間から二人を見下ろしていた。
「とにかく…さ、あっち行っても頑張れよ」
顔を戻した彩と目が合う。
「ゆう君も、サッカー頑張ってね!応援してるから」
布団に入った裕也は涙を止めることができなかった。