キスはワインセラーに隠れて


「つまり……俺が心配で来た、と」


違います、と言いたいところだけど、違わないんだよね。

風邪くらいで死ぬわけじゃないんだし、わざわざここまで来たのは、そう――



「心配……だったのと。あと……単純に、逢いたくて」



相変わらず目は見れない。だけど、もう嘘もつきたくなかった。

彼の前では、本当の私でいたい。

“女の”庄野環でいたい。


「……お前は馬鹿か」


勇気を出して言ったのに、呆れたような声が上から降ってくる。

馬鹿って……なんで?

そこでやっと藤原さんの顔を正面から見つめると、鋭く目を細めた彼に言われる。


「この部屋に入ったら今晩は帰れないかもしれないぞ?」

「……いいです」

「おまけに風邪もうつされる」

「それで……藤原さんが元気になるなら」


私の言葉を聞いた藤原さんはやれやれ、という風にため息をつき、半開きになっていた扉を大きく開けてくれた。


「そこまで覚悟できてんならいい。ただ、言っとくけど――」


言いながら私を家の中に招き入れた藤原さん。

私が履いてたスニーカーを脱いで、フローリングの廊下に上がると、背後で閉まった扉の音と、鍵を施錠する無機質な音がして。



「今日は“テイスティング”なんかじゃ済まないからな。……味わい尽くしてやる。お前のこと、骨の髄まで」



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