キスはワインセラーに隠れて
ぞく、と背筋に走ったのは、寒気と言うよりはむしろ身体の奥が疼くような、熱い予感。
「具合は、平気……なんですか?」
照れ隠しにそんなことを聞いて、時間稼ぎをしようとしても無駄なことだった。
狭い廊下ですぐに壁に追い詰められてしまった私に、藤原さんの整った顔が接近してくる。
「……平気じゃないから、お前が看病してくれんだろ? ……そのカラダで」
トン、と耳の脇につかれた両手が、私を逃げられなくするための檻になる。
さっき玄関先でした会話からも、こういうことになる覚悟はしていたはずなのに……少し、“怖い”と思っている自分がいる。
でもそれは、藤原さんが――っていう意味じゃなく。
初体験の苦い思い出と同じことになったらどうしようという、彼に幻滅されることへの恐怖だ。
「環」
唇を噛んで下を向いていたら、藤原さんが私の名を呼ぶ。
「……そんなに怖がるな。俺だって慣れてない」
「慣れてない……? 藤原さんが?」
そんなの、嘘だ。キスだって、あんなに……
「聞き返すなよ。もう黙れ」
「――――ん、っ」
乱暴に唇を押し付けられ、すぐにこじ開けられた私の唇。
力の抜けた手から落ちたビニールが、音を立てて床に落ちる。
「ふじわら、さ……っ」
昨日のキスの時も間近に感じた、それこそワインみたいに甘く私を酔わせる香りが、差し込まれる舌と一緒になだれ込んできて、胸が苦しい。