キスはワインセラーに隠れて


ぞく、と背筋に走ったのは、寒気と言うよりはむしろ身体の奥が疼くような、熱い予感。


「具合は、平気……なんですか?」


照れ隠しにそんなことを聞いて、時間稼ぎをしようとしても無駄なことだった。

狭い廊下ですぐに壁に追い詰められてしまった私に、藤原さんの整った顔が接近してくる。


「……平気じゃないから、お前が看病してくれんだろ? ……そのカラダで」


トン、と耳の脇につかれた両手が、私を逃げられなくするための檻になる。

さっき玄関先でした会話からも、こういうことになる覚悟はしていたはずなのに……少し、“怖い”と思っている自分がいる。

でもそれは、藤原さんが――っていう意味じゃなく。

初体験の苦い思い出と同じことになったらどうしようという、彼に幻滅されることへの恐怖だ。


「環」


唇を噛んで下を向いていたら、藤原さんが私の名を呼ぶ。


「……そんなに怖がるな。俺だって慣れてない」

「慣れてない……? 藤原さんが?」


そんなの、嘘だ。キスだって、あんなに……


「聞き返すなよ。もう黙れ」

「――――ん、っ」


乱暴に唇を押し付けられ、すぐにこじ開けられた私の唇。

力の抜けた手から落ちたビニールが、音を立てて床に落ちる。


「ふじわら、さ……っ」


昨日のキスの時も間近に感じた、それこそワインみたいに甘く私を酔わせる香りが、差し込まれる舌と一緒になだれ込んできて、胸が苦しい。


< 101 / 183 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop