キスはワインセラーに隠れて
「ちょっと……考える時間、くれ」
そう言うなり、くるりと後ろを向いてしまった藤原さん。
途端に、私の中にはさっき抱いた不安が広がっていく。
やっぱり……実際、さわってみたら、違ったのかな。
口ではいくら励ましてくれても、男の人ってきっと、簡単に萎えるんだよね。
初めての時も、そうだったもん……
自分で勝手に藤原さんの心境を想像していると、目の奥が熱くなってくるのを感じた。
ここで泣いたら、藤原さんのこときっと困らせてしまう。
本当は優しい人だもん。今だって、どうやって私を傷つけないで断るかを考えて悩んでるんだ。きっと。
「……帰り、ます」
私はそう言って、さっき床に落ちた袋を拾う。
私の言葉に反応して振り返った藤原さんは未だ困惑したような表情だったけれど、押し付けるようにそれを渡した。
「飲み物とか、簡単に食べられるもの……入ってますから」
「……なぁ環、お前」
「いいです。気を遣っていただかなくて。やっぱり私に女としての魅力なんてこれっぽっちもないってわかった。……もう二度と、誰のことも好きになんてなりません」
藤原さんの顔を見ないで一気に言うと、さっき入ってきたばかりの玄関に向かい、スニーカーに足を突っ込む。
そして、もう涙をこらえるのも限界――そう思って扉の鍵を開けようとしたら、後ろから伸びてきた藤原さんの大きな手が、私の手首をつかんだ。
「……勝手に傷ついて逃げようとすんな。お前にはまだ聞きたいことがある」