キスはワインセラーに隠れて
藤原さんの手が私の顔に伸びてきて、ドキン、と胸を高鳴らせたのもつかの間。
「い、痛っ!」
いつもより強めにつままれた鼻の向こうに見える彼の顔は、見慣れたエラそうな表情で。
「……長い間俺を悩ませた罪は重いぞ」
「す、すびばせん……」
「まあいい。……とりあえず部屋入れ。お前への罰はそれからだ」
ば、罰って……怖すぎる響きなんですけど。
「あのう、藤原さん、具合悪いなら寝てた方が……」
廊下の先をすたすた歩いて行ってしまう背中にこそっと呟いてみる。
でも、かなりお怒りらしい藤原さんが、そんな理由で引き下がるわけがなかった。
「……もう治った。たぶん精神的なモンもあったんだろ。つーかどんなに高熱があろうと、それくらいで弱る俺じゃない」
そう言い残した彼は、突き当りの扉に入っていってしまった。
今の……“俺”のあとに“様”が隠れてたような気がするんですけど。
それくらいで弱る俺様じゃない……って。
あーあ、もう敵いません、藤原さんには。
でも、さっき……私が帰っちゃう前に無理矢理引き留めてくれてよかった。
彼がそうしてくれなければ、私は本当に傷ついて、殻に閉じこもってたと思う。
女の自分なんか出さなきゃよかったって。
恋なんかしなきゃよかったって。
強引で自信たっぷりで、俺様発言の多い藤原さんだけど、そういう優しいところに惹きつけられてしまうんだ。
それに、意外と可愛いとこもあるし。……まさかついさっきまで私を男だと思っていたとは。
私は小さく笑うと、藤原さんの背中が消えた扉の向こうに足を踏み入れた。