キスはワインセラーに隠れて
「――待たせたか?」
「いえっ! 全然!」
裏口から出てきた私服姿の須賀さんに、私はそう言ってふるふると首を横に振った。
時刻は午後九時半を過ぎたところ。厚い雲に覆われた空に、星は見えない。
こんな時間から、どこで話をするつもりなんだろう……そう疑問に思いつつ、須賀さんの長身の隣に並ぶ。
「お前、腹減ってないか?」
「あ、減ってます! 休憩のときは、そのあと眠くならないようにあんまり満腹にならない量しかいつも食べないんで……」
「じゃあ、何か食いながら話そう。……こっちだ」
お目当てのお店があるのか、須賀さんはスタスタと先を歩いて行ってしまう。
ちょっと、私は足が短いんだからそんなに早く歩けません……!
なんて不平を飲み込みつつ小走りでついていき、もともと無口な須賀さんとはとくに会話をすることもなく辿りついた先にあったのは。
「あの……ここって?」
清潔感溢れる白い外壁を前に、私は首を傾げた。
目の前にある三階建ての建物は、どうしても飲食店には見えない。
「俺の家だ」
そうだよね、これはどこからどう見てもマンション……って。
「ええっ!? だ、だって、何か食べながらって……!」
「俺が作る。文句あるか?」
「い、いえ! 須賀さんの料理の腕が確かなことはもちろん知ってます! でも……」
昨日、藤原さんのマンションに行った時とは状況が違う。
同僚とはいえ、こんな時間に男の人の部屋に上がり込むのって、どうなの……!?
しかも、須賀さんは私のことを……