キスはワインセラーに隠れて
須賀さんは、私の動揺ぶりから心境を察したらしい。
「話が済んだらちゃんと帰すから、妙な警戒するな」
そう言って、玄関の鍵をガチャリと開けた。
……信じていい、のかな。いいんだよね、きっと。
須賀さんって、ぶっきらぼうな物言いをするわりに、いつも紳士的だし。
ここまで来て話を聞かずに帰るのも、なんか悔しいものがある。
「……お邪魔します」
結局私は須賀さんの言葉を信じて、彼の部屋に足を踏み入れた。
「わー、すごいキッチン」
部屋の広さは、私の住んでるところとそう変わらないのに、さすがはシェフの住まい。
キッチンはものすごい本格的で、家庭用じゃなさそうな、立派なコンロがついている。
「……適当に座っててくれ。飲み物は何がいい? 酒か?」
「いえ、あの、お茶かコーヒーでもあれば……」
「ああ、そうだった。……お前、すぐ潰れるもんな」
からかうように笑って、棚から紅茶の缶を取り出す須賀さん。
そういえば、酔いつぶれたところを須賀さんに介抱される……なんて、恥ずかしい事件もあったっけ。
ほとんど記憶がないのが幸いというかなんというか……
「さて、何が食いたい?」
コト、とテーブルに湯気の立つティーカップを置いて、須賀さんが私に尋ねる。