キスはワインセラーに隠れて
「ええと……お仕事で疲れてると思うので、簡単なもので結構ですけど……」
「遠慮するな。料理は趣味だ」
わぁ……さすがだなぁ。そんな台詞、言ってみたい。
料理ができないわけじゃないけど、さぼれるものならさぼりたいってのが正直なとこだもん。
女子なのに、ダメダメだ……私。
「じゃあ、お言葉に甘えて……。あの、お店でも人気のラタトゥイユって、できますか?」
「……そんなものでいいのか?」
「最近、野菜不足でして……」
「わかった。……すぐできるから待ってろ」
キッチンの方へ戻り、早速下ごしらえにとりかかる須賀さん。
レストランの味をご馳走してもらえるなんてすごく贅沢だしありがたいんだけど、やっぱりなんだか申し訳ない。
それに、座って待っているだけなのも退屈だし……
「あの、何かお手伝いすることって……」
私は野菜を包丁でスライスしていた彼の背後から、ひょこっと顔を出して、そう言った。
「……手伝い、か。あまり料理に手を出されるのは好きじゃないんだが……お前と一緒にキッチンに立つってのも、悪くない、か」
意味ありげに私を見つめ、口角を上げた須賀さん。
あ……も、もしや。一緒に料理だなんて、なんか恋人同士っぽい?
どうしよう、自分から言い出しておいて、なんか気まずい!
私は須賀さんからパッと目をそらして、まな板の上で切りかけになっているズッキーニに視線を落とす。