キスはワインセラーに隠れて


「じゃあ、それ同じ厚さに切ってくれ。終わったら茄子」

「は、はい……」


えーと、どれくらいの厚さかな。

……って、須賀さんが切ったの、キレイすぎるし!

おんなじ厚さなんて、私の技術でできる気がしない……

私が包丁を握りしめて途方に暮れていると、右隣に立つ須賀さんからものすごい視線を感じて顔を上げた。


「あ、あの……そんなに見られてると切れません」


そう言って苦笑してみたけど、須賀さんは眉根を寄せ、なぜだか険しい表情だ。

しかも、彼が見てる場所、微妙に私の手元からは外れているような……?


「……あのワイン馬鹿」


うなるように、低い声で呟いた須賀さん。

ワイン馬鹿……って。思い当たる人物は一人しかいないけど、なんで急に藤原さんのこと……


「……お前、ゆうべ藤原に会いに行ったな?」

「ど、どうしてそのこと……!?」


ま、まさか須賀さんも鼻が利くとか……?

驚いて目を丸くする私に、須賀さんが一歩近づく。


「ここ」


そして、長い腕を伸ばして私の首の後ろあたりをそっと撫でる。

それがくすぐったくて、私はびくっと肩をすくめた。


「キスマークだろ」

「ええっ!?」


< 113 / 183 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop