キスはワインセラーに隠れて
15.俺様の決断

翌日の仕事にはようやく藤原さんが復帰してきて、元気な姿を見れたことにはほっとした私だったけど。

昨日須賀さんに聞いた話が頭から離れず、藤原さんの顔を見る度切ない気持ちになるのがいやで、自然と藤原さんと会話をする機会を避けるように過ごしていた。


そして勤務時間を終え、今日も隣同士のロッカーで着替える本田に、私は無意識のうちにこう話しかけていた。


「……なぁ、本田」

「ん?」

「もしも……ここよりいい給料で、それ以外の待遇もいい場所で、同じ仕事ができるとしたら……本田はそっちに行く?」


彼にとっては突拍子もない質問だったと思うのに、本田はうーんと真剣に悩んでから、真顔でこう呟く。


「……行かねえな」

「な、なんで?」

「離れたくないヤツがいるから……かな」


帰り支度を終え、バタンとロッカーの扉を閉めた本田が、そう言って私をじっと見つめた。

離れたくないヤツ……そっか。

お給料どうこうじゃなくて、一緒に働く仲間も大事だもんね。

私も、本田をはじめここで出会った同僚のことはみんな大好きだもん。

……でも。


「あの人、本田みたいに“仲間意識”とか、考えなそうなんだよな……」


俺は俺。他人は他人。

高待遇で俺(様)を受け入れてくれる場所があるっていうのに、何を断る必要がある。

……とか言いそう……いや、言う。絶対。


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