キスはワインセラーに隠れて
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“ワインセラーには近づかない方がいい。犬並みに鼻の利く男がいるから”
面接のときにオーナーにそう言われていたにも関わらず、出勤初日に早速そのことを忘れていた私。
張り切って早く来すぎた私が、レストランの建物内を探索していると、地下へ続く階段を見つけた。
こっちはなんだろう――なんて、好奇心から足を踏み入れたのが運のつきだった。
その階段を下りて辿り着いたのは、ひんやりと涼しく薄暗い、ワインボトルが所狭しと並べられた部屋。
私がそのワインの数々をゆっくり眺めて歩いていると背後から足音が近づいてきた。
「……誰だ?」
そして掛けられた声に振り向くと、そこにいたのはものすごくキレイな顔立ちをした男の人。
前髪は長いのに、サイドはすっきりと短い、いわゆるツーブロックって髪型がよく似合っていて。
その長い前髪の分け目からは、キリッとした眉と吊り上り気味の鋭い瞳が覗く。
私はなんだかケモノにでも睨まれた気になって、思わず身を縮ませた。
「あ、あの……今日からここで働かせてもらうことになった、庄野環といいます」
私の自己紹介を聞いても彼は表情を変えず、黙ってこちらに近付いてきた。
そして私をじりじりと壁に追い詰めると、独り言みたいにこう呟いた。
「……オーナー、女雇うことにしたのか」
な、なんで私が女だって……! でも、ここで肯定したらせっかく得た仕事を失っちゃう。
そう思った私は動揺を悟られないように彼をまっすぐ見つめ返し、地声よりさらに低い声をつくって言い返した。
「……れっきとした男ですけど」