キスはワインセラーに隠れて


「……行くわけないだろ、俺が」

「え……?」


行くわけない……ってことは、今のお店に残ってくれるってこと?

目を丸くする私の口元に、藤原さんがカップケーキを差し出す。

それをあまりに近付けてくるのでしょうがなくひと口はむ、と食べると、藤原さんは満足そうに目を細めてこう言った。


「俺が店からいなくなる思って、落ち込んでたんだな。さすが忠犬、えらいぞ」


ケーキをお皿に置いて、私の短い髪をわしゃわしゃと散らすように撫でる藤原さん。


「ち、茶化さないでください! 私、本当に不安だったんですから……!」


そう言って彼を睨むと、頭の上に乗っていた手がそのままぐい、と動いて、彼の胸のあたりに引き寄せられてしまった。

ちょ、ちょっと、公衆の面前でこんなの、恥ずかしいって……!


「あ、あの……人に見られます!」

「お前が可愛いのが悪いんだろ」


いやぁぁ、これ、たぶんかなりのバカップルの図なんじゃ……

それとも、いちおう男装中でもあるから、腐女子が萌える展開?

って、そんなのどっちでもいいから、早く離してください……!


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