キスはワインセラーに隠れて


じたばたもがいてようやく解放されると、体中熱くてしょうがない私とは対照的に、涼しい顔でコーヒーを飲み始める藤原さんが目に映り、憎たらしくなる。

そんな態度取られると、私ばっかりが好きみたいで、悔しいんですけど……

そう思った私は、ある答えを期待して、藤原さんに質問を投げかけた。


「……どうして、残ることにしたんですか?」


期待しているのはもちろん、“お前がいるから”とか、そういう類の答え。

だけど、ドキドキしながら耳を澄ませていた私に返ってきたのは、そんな甘い言葉じゃなかった。


「誘われた店の方には、ウチの店みたいに広い地下室がないんだ。代わりにでかい冷蔵庫みたいなワインセラーはあるんだけど、それじゃやっぱり物足りないんだよな。
うちのオーナー、いい物件見つけたもんだよ」

「へ、へえ……」


……やっぱり、ワイン馬鹿だ、この人。

聞いた私が悪かった。


「……不満そうだな?」

「べ、別に……!」


ぷいっと顔を背けると、隣でくすくす笑う声がした。どうやら、私の魂胆に気づいていたようだ。

なのに優しい言葉のひとつもかけずに笑ってるって、意地悪だなーもう。

どうしてこんな人が好きなんだ、私!

なかばやけくそ気味の私が、テーブルの上のカップケーキに手を伸ばした時だった。


「……お前」



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