キスはワインセラーに隠れて
藤原さんの肩をバシバシ叩いて、無理やりにこっちを向かせると、その顔は耳まで赤く染まっていて。
「……お前のその無邪気すぎるとこは、ホント罪だな。つーか、バカ」
あ。この流れはいつもの……!
藤原さんの手ゆっくりがこっちに伸びてくると、これから何をされるのか、私は瞬時に理解した。
……なのに防御が一瞬遅れた。
「……痛いです。鼻」
もうなんか、このやり取り、藤原さんといるときの定番になりつつあるかも。
だいぶ慣れてはきたけど、私の鼻が変形したら、責任とってもらおう……
なんて、心の中で不平を呟いていると、藤原さんがぱっと手を離して言う。
「お前が俺のことだーい好きなのはよく伝わった。だから、その“跡”のことはお咎めなしにしてやる。
……あのシェフがお前に言い寄る理由、なんとなくわかった気がするし……」
須賀さんが、私に言い寄る理由……それって、もしかして――。
「若葉さん……?」
「……正解。お前にしては勘がいいな」
藤原さんは、オーナーから若葉さんの来た日のことを聞いて、ピンと来たらしい。
――若葉さんがうちのレストランにやってきたあの日。
彼女がクレームどうこうと言っていたのは須賀さんを呼び出す口実で、あの日は自分のレストランに藤原さんが欲しいっていう話だけじゃなくて、須賀さんにも何か大事な話があったのだそうだ。