キスはワインセラーに隠れて
すると目の前の男はずいっと顔を私に近付けて来て、息のかかりそうな距離でこうささやいた。
「男? ……にしちゃ美味そうな香りするけど」
その声があんまりにもセクシーで、全身が熱くなっていくのが分かった。
心臓は警報アラームのように、バクバクとうるさい。
コイツ、危険かも……!
そのまま正体がばれてしまうことを、私が覚悟したとき――
「――んなわけない、か。色気も胸もないし」
そう言って男はスッと離れて行った。
ちょっと、いくらなんでも失礼すぎ……!と怒ることのできる立場じゃない私はとりあえずほっと胸を撫で下ろし、男の背中に問いかけた。
「あの、あなたは……?」
「……俺か? 俺は藤原雄河(ふじわらゆうが)。ココのソムリエだ」
――ソムリエ。なるほど、だから鼻が……
彼の正体に納得しつつ、そろりそろりとワインセラーをあとにしようとした私。
だけど……
「タマ」
タマ……?
も、もしかして、私のこと?
振り返れば、藤原さんは妖しげに目を細め、口元には小さな笑みを浮かべていた。
「俺はお前を気に入った。このワインセラーに自分とオーナー以外の人間に近付かれるのはあまり好きじゃないが、お前なら許すことにする」
「そ……それは、どうも」