キスはワインセラーに隠れて
若葉さんは自嘲するように笑って、こう続けた。
「それにね、同じ料理人を志す者として、嫉妬心もあった。だから、あなたにあまり近づきたくなかったの。……航の才能が、眩しすぎたから」
「……そんな風に思ってたのか」
須賀さんは、初めて知る真実に、言葉もないようだった。
若葉さんの発言には、私も少し驚いた。
好きな人が同業者って、単純に共有できるものが多いような気がしてたけど、苦しいこともあるんだな……
「だから……自分もようやく一人前になれた今、あなたの気持ちを確かめにくる勇気がやっと持てたところだったんだけど……」
ちら、と私の方を見た若葉さんが、苦笑して言う。
「航の気持ちは、そこの可愛いウエイターさんに奪われちゃったみたいね?」
その言葉に、須賀さんも私の方を振り向き、それから観念したように頼りない笑みを浮かべた。
「……これはお前らの仕業か」
「え……あ、いえ! その……!」
こんなしどろもどろで否定したって、なんの説得力もない。
くるりと若葉さんの方に向き直った須賀さんは、意地悪な口調でこう言った。
「……そこのボウズは、さっきお前に迫ってたソムリエの飼い猫だ。俺のじゃない」