キスはワインセラーに隠れて
す、須賀さんまで猫って……!
っていうか、その前のボウズもひどい!
――と、私が内心怒っている間に、須賀さんは若葉さんを自分の腕の中にすっぽり、抱き寄せていた。
「俺がこの髪を伸ばしてたのは、たぶん……」
そうして語ったのは、今日も頭の後ろでひとつにくくられている、須賀さんの長髪の理由。
「無意識のうちに、お前を想ってたからなんだろうな。男とか女とかこだわり過ぎるなって、いつもお前に対して思ってたから」
「航……」
……よかった。やっぱり心の深いところで、須賀さんは若葉さんを想っていたんだ。
そして、若葉さんも同じく須賀さんを。
最初はただのお節介だったらどうしようと思ってたけど、二人を見る限りそうじゃなかったみたい。
私は固く抱き合う二人を、映画かドラマのワンシーンのように、感動しながら見つめていた。
なのに、もう一人の観客は、そこまで感動していなかったみたいで。
「……須賀さん。そろそろ仕込み行かないと、マズいと思いますけど」
ムードをぶち壊すように、棒読みでそう言ったのは、藤原さんだ。
ゆっくり若葉さんと身体を離した須賀さんはぶすっとした顔で、藤原さんに言う。
「ライバルが消えたからって、余裕だな。……もしかして、お前が若葉の店に行くと言うのも嘘か」
「ご名答」
「……相変わらず虫の好かないヤツだ。若葉、ウチのソムリエは性格に難ありだから、手に入らなくて正解だ」
二人のやり取りを聞いて、くすくす笑う若葉さん。
私もつられて笑いながら、ほっと胸を撫で下ろしていた。
須賀さんと若葉さんのことは、とりあえず一件落着って感じで、肩の荷が下りた。
あとは、自分のことだけど……そこまで危機感持たなくても、大丈夫かな。
須賀さんも、藤原さんも、私の正体は知っているけど味方だし。
とにかく少しでも長く、このお店で働けますように――。