キスはワインセラーに隠れて


「――わ!」


足場の位置を読み誤った私の足は、すか、と空を切っていて。

ヤバい、踏み外した……! なんて思っている一瞬で、私の身体は後頭部から床をめがけて一直線。


「環!」


痛みを予想してぎゅっと目を閉じ、たんこぶくらいできるかも……なんて、思っていたけど。

ぶつかった先は考えていたよりも硬くなく、かといって柔らかくもなく……

ぱち、と目を開けて上半身を起こすと、後ろで「痛てて……」と呟く声が聞こえた。

こ、これは、もしや……



「ほほ本田! ゴメン! 重かった……つーか痛かったよな!?」



くるっと後ろを振り返ると、どうやらクッション代わりになってくれたらしい本田が、頭の後ろをさすりながら、弱々しく笑う。


「いてぇ……けど、へーき。環は、無事?」

「うん、本田のおかげで。……ゴメンな、俺の不注意で。頭、打ったのか?」

「まあ、軽くな」


やっぱり、打ったんだ……

倉庫の床は、絨毯の引いてある通路やホールの方とは違って、剥き出しのフローリング。

コンクリじゃなくてよかったけど、それでも痛かったよね……


「ちょっと、さわらせて」


座ったままでずい、と本田の方に身を寄せ、手を伸ばして頭の後ろをすりすりと撫でた。

……よかった。どうやら、こぶはできてないみたいだ。


「あー……環。今すぐ俺から離れろ」

「え? なんで?」

「いいから離れろって……」



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