キスはワインセラーに隠れて
急に態度のそっけなくなった本田を不思議に思いつつ、少しだけ後ろに下がって上目遣いにその目を見つめてみる。
すると……
「……まだ近ぇよ、バカ」
さっき私の撫でていた後頭部をがしがしっと荒々しい動作で掻いた本田は、そう言うなりなぜか私の手首を両手でつかんで、床に押し倒した。
んな……っ! なになに!? どうしてこうなるの!?
「ほ、んだ……?」
「もー限界。悩むのもやめだ。……お前が悪いんだからな、環」
「え、い、意味わかんない……っ」
じたばたもがいても、所詮は女の力。
本田の顔がじりじりと近づいてきて、私はもうなすすべがなくなってしまった。
だ、誰か助けて―――――!
心の内で、泣きそうになりながらそう叫ぶのと、倉庫の扉が開く音がしたのはほぼ同時だった。
「二人とも、そろそろ終わったか――――」
呑気な調子でそう言いながら入ってきたオーナーが、私たちの様子を見て、固まってしまった。
本田の顔はさすがにもう離れていたけど、私に馬乗りになっている状態を見れば、タダごとじゃないっていうのはわかる。
「オーナー……」
しかも、オーナーの登場に心から安堵した私は、瞳にうっすら涙を浮かべてしまった。
どうしよう……この状況から助かったのは、うれしいけど。
もしかしたら、これから起こることの方が、私にとって危機的状況なんじゃ……