キスはワインセラーに隠れて
*
スタッフルームの前の通路で、私はしばらくの間待たされていた。
部屋の中では、オーナーが本田に事情聴取をしている最中。
……本田のヤツ、どうして、あんなこと。
私の正体に、気づいて……?
今まで、本当に仲の良い同僚だと思っていただけに、ショックが大きい。
あの時つかまれた手首が未だにジンジン痛んで、なんだかすごく落ち込むよ……
私は自分で自分の手首をさすりつつ、深いため息を吐く。
すると、スタッフルームの扉が静かに開いて、オーナーと本田が一緒に出てきた。
「環……」
神妙な顔で、私を見つめる本田。私も本田の方に体を向けて正面から彼と向き合うと、本田はおもむろに頭を下げた。
「――ゴメン! 乱暴なことして!」
……それって、私を“女”と理解したうえで言ってるのかな。
どう返事をしたらいいか迷っていると、体を折り曲げたままの本田の後ろで、オーナーがなにやら私にジェスチャーと口パクで合図している。
“コイ、ツ……バカ……だから”
唇の動きを読みつつ、動作に注目すると。
本田を指さしてから、その指をくるくる回して、ぱー……って、オーナー、結構ひどい!
私が内心ツッコんでいる間も、オーナーの合図は続いていた。
“まだ……きづいて、ない。環ちゃんが、女だって……”
「ええ! じゃあ、どうして……」
思わず口に出すと、本田が頭を上げる。