キスはワインセラーに隠れて
18.水玉模様のグラスで乾杯
私のウエイターとしての寿命は、七月いっぱいで尽きることが決まった。
そのことは、オーナーと私と、それから香澄さんしか知らない。
定休日をはさんで次に出勤するそのときに、オーナーが従業員の皆にそのことを伝え、私もいちおう挨拶をするようにと言われた。
……でも、あくまで“男”として。
そこでいきなり性別を明かしたら、その日の仕事に支障が出るかもしれないし、ずっと騙されていたことに不快感を覚える人だっているだろう。
そういうことを考慮して、私は最後まで男を貫き通すようにと言われたのだった。
*
そして今日は、自分の立場が宙ぶらりんのままの、定休日。
「……なんて顔してんだよ」
昼ごろに私の部屋を訪ねて来た藤原さんが、玄関で私の顔を見るなり苦笑してそう言う。
呼び出したのは、他でもない私。
私がplaisirを去ることになったのを、この人だけには先に伝えておきたいと思ったから。
「どんな顔、してます……?」
笑顔を作ったつもりで聞き返すと、頭に大きな手が乗せられて、彼は言った。
「……俺に慰めて欲しいって顔」
……やだな。そんなの、自分がすごく弱い人間みたいで。
だけど、違いますと否定することができない。
藤原さんの前では弱くたっていいかもしれないと、そんな甘えも心の隅っこの方に顔を出す。
「ま、とにかく上がるぞ。話はそれからだ」
「はい……狭いですけど、どうぞ」
私は浮かない顔で返事をすると、藤原さんを部屋に招き入れた。