キスはワインセラーに隠れて
いつまでも黙ったままで返事をしない私に呆れたのか、背中の熱がふっと離れて行った。
それを少し心細く思っていると、藤原さんがキッチンの方からあるものを持って戻ってきた。
「お前はちょっと真面目すぎるんだよ。……コレ開けようぜ、そしたら悩みなんてどーでもよくなる」
ドン、とテーブルに置かれたのは、見覚えのあるワインボトル。
ラベルの四桁の数字は、私の生まれ年。
……前に“お詫び”として藤原さんにもらったワインだ。
「……まだ昼間ですけど」
「いいだろ休日くらい。グラスどこだ」
「あ。我が家にそんなものない、です」
「お前な……使えそうなの勝手に探すぞ」
不覚だ……仮にもソムリエを職業としてる人の彼女だっていうのに、食器棚にワイングラスがひとつもないってどうなの。
今度、買っておかなきゃ……
そんなことを考えている間に、目の前には二つのグラスが並べて置かれる。
いちおう形はワイングラスに似たチューリップ型ではあるけど……脚はないし、安っぽい水玉模様が描いてあるし。
……って。コレ、私がいつも牛乳とか入れてるヤツじゃん!