キスはワインセラーに隠れて
19.俺も辞めます
目が覚めてみると、隣に寝ていたはずの藤原さんの姿がなく、その代わりに枕元のスマホにメールが入っていた。
【仕事で確認したいことがあるから、早めに店行く。お前も遅刻するなよ。いくら腰がダルくても】
……こ、この人はまた余計なひと言を。
恥ずかしさからスマホをベッドに放ってシャワーを浴びるために立ち上がると、彼の言う通り、本当に腰が重かった。
それはもちろん藤原さんと抱き合ったせいでもあるけど、あの人と一緒のベッドで寝るのは、単純に狭かったのだ。
……あの俺様、全然端っこに寄ろうとしないで真ん中で寝ちゃうしさ。
それでも昨日、彼と過ごした甘い時間は、私の心をずいぶん軽くしてくれた。
みんなと離れるのは寂しいけど、今日はきちんと挨拶をして、感謝の気持ちを伝えなきゃ。
特にお世話になった人たちには、個別に話もしたいし……
シャワーで寝汗を流して身支度を整えると、出勤にはまだ少し早かったけれど、私は家を出る。
「あっつ……」
玄関の扉を開けばそこに広がるのは、まぶしさに目が眩むほど気持ちよく晴れ渡った、夏空。
今月いっぱいは私だってあそこのスタッフなんだから、最後まで自分の仕事、ちゃんとまっとうしなくちゃ。
そう心に決めると、私は愛用のブルーの自転車をこいで、レストランへの道を急いだ。