キスはワインセラーに隠れて
え……?
藤原さん、何言って……
「ちょっと待った! 俺も!」
私が唖然としているうちに、バタバタと足音を立てて藤原さんの隣に並んだのは、なぜか怒ったような表情の本田だ。
俺も……って、どういうこと?
目の前で起きている状況が、全く飲みこめない。
「お前ら、何言ってんだ。そんなに一気に辞められたら、店はどうなる――」
呆れたように、オーナーがそう言いかけたとき。
「……いい機会だ。俺も辞める時期を窺ってたんです。乗っからせて下さい」
そんな言葉とともに、また一人、スタッフの集団を抜け出してオーナーの前に立ちはだかるコックコートの人物が。
「す、須賀さんまで……! みんな、何言ってるんですか!」
いい加減口を出さずにはいられなくなって、思わず大声でそう言った私。
だけど、オーナーの前に横一列に並んだ三人が発言を撤回することはなく、むしろオーナーに歯向かうような調子で言葉を続ける。
「庄野環のいない店で働きたくありません」
きっぱり言い切るのは、藤原さん。
「右に同じ!」
そう言って、エラそうにふんぞり返るのは本田。
「俺は……前々から、もう少し拘束時間の短い店に移ろうと思ってたんで」
須賀さんは一番まともな理由を述べたけど、だからって、このタイミングでそんなことを言い出す意味がわからない。
みんな、なんで急にそんなこと……