キスはワインセラーに隠れて
どうしよう……今まで散々お世話になっている本田には、辞める前に本当のことを言ってもいいかなと思っていたけど。
今このタイミングで言うのって、なんかややこしいことにならないかな……?
「あのさ、本田――」
それでも勇気を出して、私がそう呼びかけると。
「あー、いいんだ。わかってる、環が好きな人のことは。フラれるってわかってても、ちゃんと言っておきたかったんだ。
あ、でも。別にフッたからって気まずくなる必要はねーからな。今まで通り、友達でいてくれりゃーいいから」
早口で一気にそこまでまくしたててから、明るく微笑む本田。
そんな彼を見ていたら、私までつられて笑顔になった。
ホント、いいやつだな本田って。
本当のことを言うタイミングは逃したけど、本田ならたぶん、私が男だろうが女だろうが同じように接してくれるんだろうから、とりあえず、いいか。
……でも、さすがにあのことは、“いいやつ”のひとことで済ませられない。
「……そういえば。さっきのこと、オーナーはなんて? まさか、本田のこと辞めさせたりしないよな?」
「ああ。アレな。……結局俺ら三人も決まったよ、今月で店辞めること」
「ええっ!?」
うそ……三人とも、このお店に絶対必要な人材だと思うのに、オーナーは何を考えてるの?
「俺のせい……だよな」
「……言うと思った。でも違うって。俺らが自分たちで勝手に考えてやったことだから、気にすんなよな」
そんなこと言われたって……
恨めし気に本田を見つめると、彼は少し申し訳なさそうに笑い、この話は終わり、とでも言うかのように、私の肩を叩いて更衣室を出て行ってしまった。
……彼らの考えが、全然見えてこないよ。
できれば他の人にも、事情を聞きたい。
藤原さん、まだ帰ってないかな……