キスはワインセラーに隠れて


ダメもとで覗いてみた、地下室のワインセラー。

そこには未だソムリエ姿のまま、ワインのボトルを大きな木箱に詰めている藤原さんの姿があった。


「藤原さん」

「……ああ、お前か。まだ帰らないのか?」

「帰れるわけありません。あんな姿見せられて」


そう言って彼の側に行くと、藤原さんは箱に詰めたワインの種類や銘柄を丁寧にノートに書きつけていて、仕事の邪魔しちゃ悪いかなと思いつつ、質問を投げかける。


「……なんなんですか、“俺も辞める”って」

「言葉通りだけど?」


しれっと言う藤原さんは、私の目を見ようとせず、ノートの文字とラベルとを見比べるのに夢中みたいだ。

……そーですか。ワインの方が大事ですか。

少々むすっとしつつ、私は戦法を変えてみることを思いつく。


「……そのワイン、どうして箱に詰めてるんですか?」


パッと見た感じ、三~四十本は箱におさめられているようで、その分この部屋にあったワインが減って、棚が少しスッキリしたように見える。


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