キスはワインセラーに隠れて
「これは、あっちの店に持ってく分――」
何気なくそう口にした藤原さん。
けれどそのあとで一瞬固まり、私をちら、と一瞥すると、また視線をノートに戻してそっけなく言う。
「……お前には関係ない」
「な、なんでそんな言い方……それより“あっちの店”って?」
「だから、お前は知らなくていいんだよ」
なんでそんな冷たい言い方するの?
私のにらむような視線に気づいたのか、藤原さんはノートを閉じて私の正面に立ち、ポケットを探ると私の目の前に何かをかざした。
「……先に俺の部屋帰ってろ。そこで存分に可愛がってやるから」
目の前にぶら下がるのは、銀色に光る鍵。
「そ、そういうことじゃないです! 私はただ話を聞きたいだけで……っ」
「悪いけど忙しいんだ。……あとでな」
無理矢理私の手に鍵をを握らせると、すぐにまた仕事を再開してしまう藤原さん。
私は全く腑に落ちなかったけれど、彼の部屋で待っていれば確実に話は聞けると思い、仕方なく受け取った鍵を手に店をあとにした。
そうして彼の部屋に着くと、まずはシャワーを借りて汗を流した私だけど、それからしばらくしても藤原さんはなかなか帰って来なかった。
……あの、ワインの箱詰め作業が長引いているのかな。
それからテレビを見たり、スマホを眺めたり、色々な方法で時間をつぶしてみたけど、一向に玄関の開く音はせず。
仕事の疲れもあってか、ソファの上で横になってしまうと、私はすぐに睡魔に襲われて、そのまま眠りに落ちてしまった。