キスはワインセラーに隠れて


翌朝、私が目覚めて立ち上がると、体に掛けられていたらしいタオルケットがストンと床に落ちた。

きっと、藤原さんが掛けてくれたんだよね。

……いつ帰って来たんだろう。

眠い目をごしごし擦りながら寝室の扉の前まで行くと、扉に張り紙がしてあるのを見つけて、私は眉を顰めた。


【就寝中。絶対起こすな】


……何これ。つまり、部屋に入るなってこと?

私がここに泊まったのは、藤原さんと話しをするためだったのに……!

腹立たしさをどうにも抑えきれず、私は張り紙を無視してガチャリと扉を開けた。

そしてスタスタとベッドのそばまでいくと、腰に手を当てながら藤原さんの寝顔を見つめる。

起きているときは傍若無人な俺様も、寝てる時は子供みたいに無邪気でかわいいな――じゃなくて!

私は小さく息を吸い込み、彼に向かってつぶやく。


「……藤原さん。あなたはきっと私よりもあのお店のことが大好きなのに、どうして辞めるなんて言ったの……?」


眠っている彼にはもちろん聞こえてないだろう。

けれど、私は構わず思いの丈をぶつけてみた。


「もしも、私のためなんだとしたら……そんなの、全然うれしくありません」


たとえば、私を辞めさせようとするオーナーの考えを変えさせるために、とか。

藤原さんなら、やりかねない気がする。

表面上はわかりにくいけど、本当は優しい人だから。


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