キスはワインセラーに隠れて
「あのお店の地下室……ワインセラーが好きなんでしょ? オーナーはいい物件見つけたって、エラそうに言ってたじゃないですか」
ワインのことになると饒舌で、ソムリエナイフまで持ち歩いてて。
私にキスしたときでさえ、その味をワインにたとえたりして……
私はそんな藤原さんが好きなの。
ワインに囲まれて、生き生き仕事してるあなたが、好きなの。
「私は……たとえ自分がいなくなったあとでも。あのお店の、あの場所に、藤原さんがいなきゃイヤです」
出勤初日に、ワインセラー……彼のナワバリに迷い込んでしまった、あの時から。
私たちの運命はきっと、始まっていたから……
それから私が黙ってしまうと、部屋は静けさを取り戻した。
とりあえず言いたいことを言いきった私は、ちょっと心が落ち着いた気がしてふうと息をつく。
そして、くるりと踵を返し、扉の方へ引き返そうとした時――――
「……起こすなって書いてあっただろ」
背後からそんな低い声がして、私はびくっと肩を震わせた。
「藤原さん……」
振り返ると、気だるげにベッドから身を起こした彼が、こちらに近づいてくる。
今の……全部聞かれてたのかな。
でも、別に聞かれて困ることじゃない。私の正直な気持ちだもの。