キスはワインセラーに隠れて
20.嘘には嘘で
それからというもの、私と藤原さんは、ただの同僚――むしろそれ以下になったような、ギスギスした雰囲気になってしまった。
お互いあからさまに目を合わせるのを避けていたし。
用事があるときは、直接会話をしなくていいよういつも間に誰かを立ててその用を済ませ、仲直りなんてできそうな気配は全くなかった。
「……庄野? なんだ、怖い顔して」
「なんでもありません!」
それどころか、私は何も悪くない須賀さんに冷たく当たったり。
「たーまき! 見ろ、昨日ばななっしー抱き枕ゲット――」
「ふーん……きもい」
終いには大好きなゆるキャラすら愛せなくなってしまい、お店を去るまであと少しだと言うのに、お世話になった人たちに、恩返しどころか迷惑ばかりかける日々が続いた。
*
もっと、気持ちよく、この日を迎えたかったな――――。
ベッドの上でそう思いながら、閉じていたまぶたをゆっくり開けた。
むくっと体を起こして棚の上にある卓上カレンダーを見ると、思わずため息がこぼれた。
今日で、plaisirに行くのも最後なんだ……
楽しいことはたくさんあったはずなのに、その思い出が霞んでしまうほど、最近の憂鬱な日々の印象が強い。
結局、今日まで藤原さんと仲直りはできないまま。
もしかしたら、私たちこれで終わっちゃうのかな……
そう思って弱気になりかけた自分の頬を、両手でぱちんと挟んで喝を入れた。
あんな俺様のことなんかで悩んでる場合じゃない。
今日くらい、よく働いたって胸を張って言えるくらいの仕事をしなきゃ。
気持ちを奮い立たせるようにがばっと起き上がった私は、キレイな顔で最後の日を迎えるために、顔を洗いに洗面所へ向かった。