キスはワインセラーに隠れて
21.甘いワイン、甘い二人
秋にスタートした二号店の営業もうまく軌道に乗ってきた、翌年の春。
ひと組のカップルがうちのレストランを貸切にして、結婚披露パーティーを開いていた。
「――おめでとうございます。若葉さん」
給仕の途中で花嫁に近付いた私は、お祝いの言葉を口にした。
春らしい黄色のドレスに身を包み、同系色の花かんむりで髪を飾る若葉さんは、おとぎ話のお姫様のようでとってもキレイ。
動くたびに肩の上でふわりと揺れる髪は、前よりずいぶん伸びて女性らしい印象になった。
「ありがとう。アナタはまだ、その予定はないの?」
「え? わわ私はまだ、全然……っ!」
「それは残念だわ。でも結婚が決まったら、是非披露宴のお料理のこと相談に来てね」
「はい……ありがとうございます」
まだ、そんなの全然先のことだとは思うけど……
ちょっとだけ藤原さんとの明るい将来を想像してしまった私が、一人で照れていると。
「――コイツらが結婚するときは、俺が料理を担当するに決まってるだろ。若葉の出番はない」
新郎席から須賀さんがそんなことを言い、若葉さんが頬を膨らませた。
今日の須賀さんはチャコールグレーのタキシードに身を包んでいて、いつも白いコックコートのイメージがあるだけに、大人っぽくて素敵に見える。