キスはワインセラーに隠れて
「素敵だったなぁ……若葉さんと須賀さん」
パーティーが終わり、後片付けもあと少しとなった店内。
ひとつひとつのテーブルに飾ってあった花を回収していたところで、私はふと呟いた。
手の中に出来上がった花束は若葉さんの花かんむりを思い出させる黄色系の色が集まっていて、まるで花嫁のブーケ。
それを持っているだけで、なんだかロマンチックな気分になってくる。
「その花、持って帰って飾るか?」
床に落ちた紙ふぶきやフラワーシャワーを掃いていた藤原さんが、そう言ってこちらに近づいてくる。
「あの部屋、花瓶なんてありましたっけ?」
「なけりゃワインボトルで代用すればいいだろ」
「そっか! それなら腐るほどありますもんね」
私と藤原さんは去年の秋ごろから一緒に住むようになっていて、ときどき……いや、ほぼ毎日彼の俺様な性格に振り回されているけれど、交際は極めて順調。
今すぐ、ってわけじゃないけど、いつかは私たちも須賀さんと若葉さんのように……と夢見ている、幸せな毎日だ。
「――腐るといえば環。ついにアレが手に入ったんだ。ちょっと来い」
「あれ、ってなんですか……?」
「飲んでからのお楽しみ」
飲む……ってことは、やっぱりまたワインか。
付き合いが長くなればなるほど、藤原さんのワインおたく具合には呆れる部分も出て来ている。
……たまに、目が飛び出そうな値段のモノとか買ってくるし。
それでも、一緒の部屋に帰って藤原さんとワインで乾杯するひとときはすごく楽しい時間だし、彼からワインを取ったら、きっとあの人生きる意味を見失っちゃうから、認めるほかないよね。
そんなおおげさなことを考えて小さく笑いながら、彼のあとについて地下への階段を下った。