キスはワインセラーに隠れて
ここのワインセラーは前のお店よりは少し狭いけれど、棚に並ぶボトルの数はあまり変わらないんじゃないかと思うくらい、多種多様なワインが揃っている。
その一番奥の方から、ひとつの木箱を持ってきた藤原さんが、パコ、とそのふたを開けて言う。
「――これ、前に飲ませてやるって約束してただろ」
ボトルに満たされているのは、透き通った薄い黄色のワイン。
ラベルを読んでも何て書いてあるのかわからない私は、素直にこう聞く。
「……? 白ワインですか?」
「いや……これは、貴腐ワインだ。ソーテルヌの」
貴腐ワイン……そういえば、前に彼の口からその名は聞いたことがある。
確か、私にキスした後の感想で言ってたんだ。
“お前の味は、貴腐ワインだ”――って。
「どんな味なんですか……?」
「まあ、特徴は強い甘みと高貴な香りだな」
「つ、強い甘み……」
なんだか間接的にすごく恥ずかしいことを言われた気がする。
私とキスしてそう感じたってこと、だよね……
ますますどんな味なのか気になる。
「それ、お店用に買ったものじゃないんですか?」
「ああ、これは俺が個人的に取り寄せたんだ。……そういう、きっかけがないとどうも言い出せそうになかったから」
「きっかけ……?」
それに、“言い出せそうにない”って、何を……?