キスはワインセラーに隠れて
「……箱の中身をよく見ろよ」
ぼそっとそう言うなり、部屋を出て行こうとする藤原さん。
箱の中身……?
棚に置き去りにされた、さっきの貴腐ワインの箱を手に取り、私はその中を覗いた。
……あれ? よく見ると、ボトルにリボンがあしらってある。プレゼントみたいに。
でもそれ以外に変わったところなんて――――あ。
「藤原さん!」
大声を出してみたものの、彼はすでに部屋の外に出てしまっていて、私はすぐに駆け出して彼の後を追う。
そして階段の途中でその背中に追いつくと、ぐいっと腕を引っ張って、彼を無理やり地下室へと連れ戻した。
「……なんだよ」
前髪をかきあげ、面倒臭そうな顔をしている藤原さんだけど、私にはもうわかる。
さっきから様子がおかしかったのは、ただ照れていただけなんだね。
私は無言で彼に歩み寄ると、かかとを上げて背伸びをし、藤原さんに短く触れるだけのキスをした。
「……環?」
「答えは、“YES”……です」
その意味がわかったらしい藤原さんはふう、と息を吐き出して、彼らしくない安堵の表情を浮かべた。