キスはワインセラーに隠れて
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「……男性しか募集してない?」
開店前のお店で向き合ったオーナーは、大きな体を縮こまらせて申し訳なさそうにしていた。
「うん、この求人には書いてないんだけどね。前にお客さんから好かれちゃって、あげくストーカーみたいなことまでされちゃた女性従業員がいて。
……それ以来、女の子を雇うのはやめてるんだ」
……そんな。電話では性別のことなんてひと言も言ってなかった。だからこうして面接に来たっていうのに……
腑に落ちないって顔をする私の表情を見て、オーナーはつぶらな瞳を伏せて言いにくそうにぽつぽつと語り出した。
「女の子のわりには、声が低かったし……あ、もちろん電話越しだったからってのもあると思うけど。
あと、“環”って。男でもいそうな名前だったから」
「ああ……そういうことですか」
声が低いっていうのは、昔からよく言われる。
“環”って名前も、男だか女だかわからないって、小、中学生時代にからかわれたこともある。
加えて、167cmある身長。さばさばした性格。服装も、スカートよりはパンツスタイルの方が断然多くて。
自分でも、男っぽいって自覚があるから、この人の好さそうなオーナーさんを責めることはできない――――
……あ、そっか。それなら逆に。
「“男”として働くなら、問題ないってこと……ですか?」