キスはワインセラーに隠れて
3.イケメンソムリエの悩み
五月に入り、ちょっと動くと汗ばむようになってきたある日のこと。
仕事を終え、更衣室で私服に着替えていた私の元へ、同じく仕事上がりの本田がやってきた。
自分の着替えはほとんど終わっていたけど、逆に男の人の着替えを見るのも恥ずかしいものがある。
だから、「お疲れ」と言ってそそくさと去ろうとしたのに、何故だか本田にがしっと肩を掴まれてしまった。
「……どしたの?」
「やばい、環、おれ」
いつになく本田の表情が険しい。何か仕事でミスでもしちゃったとか……?
「……電話番号、受け取っちまった」
深刻な様子でそう言った本田。
「電話番号……って、誰の?」
「お客さん……女の。“初めて見たときから好きでした”――って告白付きで」
「へえ……それは困る……って。え? やったじゃん!」
ついに本田にも恋の相手が!
何をそんなに深刻ぶってるのかと思ったら、照れてるだけだったんだ!
友達として素直に嬉しくて笑顔で本田の顔を覗き込むと、その表情はどうしてか暗い。
「……嬉しくないのか? 彼女欲しがってたのに」
「や、なんつーか……突然すぎて、嬉しいっていうより困惑の方が勝ってて」
「そっか、向こうはずっと本田を見てたとしても、本田にとっては初対面だもんな」
いきなり告白されても困る……か。
でも、本田には幸せになって欲しいから、どうにか進展させたいなぁ。