キスはワインセラーに隠れて
4.誰と一緒の部屋?
……やばい、こんな日に限って寝坊するなんて!!
自転車を飛ばしていつもの坂を下る私は、かなり焦っていた。
今日は、約束していたワインの買い付けの日。
藤原さんとはお店で待ち合わせることになっていて、もうすでに約束の朝七時を五分過ぎてしまった。
やだな……自業自得とはいえ絶対に何か嫌味言われるよ~!
必死にペダルを漕いでお店の前に着くと、そこには見慣れない黒のミニバンが停まっていた。
“わ”ナンバーだ。ってことは、今日はこれに乗って山梨に……?
二人で行くにしてはずいぶん大きい――――
「――――遅い」
車の周りをなんとなく眺めていたら、その影から人の声がしたのでびくっと肩を震わせた私。
うう、やっぱり怒られた……けど。
今の、藤原さんの声じゃなかったような……
ジャリ、と靴底がアスファルトを擦る音がして、車の影から姿を現したのは、意外な人物。
「まさか旅行気分なわけじゃないだろうな? 向こうのワイナリーにだって時間の都合があるんだから、遅刻されると迷惑をかけることになるんだぞ」
「す、須賀さん……!」
いつもはキッチリ結んでる髪が今日はハーフアップだ。……なんてことはどうでもよくて。
どうして、シェフのあなたがここに?
「――あ、環来たんですか? お前遅いぞ。寝坊?」
「ほ、本田まで……!」
須賀さんの長身の向こうから、ひょこっと顔を出したのは本田。
なになに? どうなってるの?
でも、“向こうのワイナリー”ってことはまさか――。