キスはワインセラーに隠れて


私が恐ろしい予感を抱いて立ちすくんでいると、お店のドアが開く音がした。

そこから出てきたのはオーナーと香澄さん、そして藤原さんの三人で、みんな揃って私服姿。

そしてオーナーは、閉まった扉になぜか“closed”の札を掛けてこちらを振り返った。

……今日は定休日じゃないはずなのに。


「――揃ったか? じゃあ出発しよう、道が混まないうちに」

「オーナー……あの、これって……」


戸惑う私の顔を見て、オーナーは苦笑して香澄さんの方を見る。

すると彼女はとっても意味ありげに、私にウインクして見せた。

……もしかして、私のため?

確かに、オーナーご夫妻がついてきてくれるならとっても心強い、けど。

お店の裏に自転車を止めに行き、戻ってくるとすぐに私の腕を引っ張るのは本田。


「環は俺の隣な! ……こないだの件、またちょっと相談したくて」

「あ、お、おぉ」


その後ろからついてくるのは、不機嫌そうなシェフ。


「まるで遠足だな……幼稚園児の」


彼らもどうして一緒に行くの?


運転席にオーナー。そして助手席には香澄さん。

二列目のシートに私と本田が座り、三列目にロン毛とツーブロ……もとい、須賀さんと藤原さん。


「タマ」

「……はい?」


後ろから藤原さんに呼ばれて、シートの上から目だけ覗かせると。


「人数増えたから聞くけど、お前誰と同じ部屋で寝たいんだ?」


偉そうに脚を組んで座る彼に、そんな質問を投げかけられた。

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