キスはワインセラーに隠れて
「やる気……?」
「ああ。……帰りにかなえちゃん家に寄って、彼女お茶とか出してくれたんだけど。なんつーか、そういうの期待してるのが見え見えで」
「そういうの……?」
本田の話がよく見えなくてオウム返しばかりしてると、隣の彼はふっと息を漏らして苦笑した。
「……だからさ。あまりにもハッキリ“私とエッチしてください”ってかなえちゃんの顔に書いてあるもんだから、逆になんか冷めちゃって、結局何もしなかったって話」
……そ、そういうことか!
照れるな環! 今は男同士!
「ま、まだ一度目のデートだから……ちょっとタイミングが早すぎただけじゃねーの? これからもっとかなえちゃんのこと知ってけば、こう、自然に……」
「俺もそう思ったんだけどさ。次のデートの誘いとか、知らず知らずのうちに避けようとしてる自分がいて……たぶん、この先どんだけ彼女を知っても、好きにはなれない気がするんだ」
「……そっ、か」
……残念だな。本田には幸せになって欲しかったのに。
でも、恋愛って無理やりするものでもないし、気持ちのないまま付き合っても、かなえちゃんのこと逆に傷つけちゃうのかも。
「そのこと、彼女には言ったのか?」
「……や、まだ。こういうの、苦手なんだよな……」
ため息まじりにそう言って、シートの背もたれに身を預けた本田。
そうだよね。相手を傷つけるとわかってて突き放すのは、心苦しいものがある。
ううん、どうしたものか……