キスはワインセラーに隠れて
「うーん……でもうちの奴ら、結構クセ者多いし……」
「――やらせてあげればいいじゃない」
渋い表情を崩さないオーナーの声に被さったのは、女の人の声。
テーブルにくっつきそうなほど頭を下げていた私が顔を上げると、そこにいたのは長い髪をキレイに後ろでまとめた美人の女性。
身に着けている真っ白な制服を見る限り、調理スタッフなのかな?
でも、女性の従業員っていないはずじゃ……
「香澄(かすみ)、何を勝手なことを言って……」
「このお店にムサい男どもしかいないの、寂しいと思ってたのよね。それに、こういう頑張り屋さんの女の子は応援してあげたいし。同じ女としては」
「でもなぁ……」
「いざという時は、あなたが守ってあげればいいじゃない。私の時みたいに」
香澄と呼ばれた美人さんが言うと、オーナーが急に頬を赤くしてうろたえた。
あ、もしかしてこの二人って……
「香澄さんは、オーナーの奥様……?」
こぼれるように口をついて出た問いかけに、香澄さんは親指を立てて微笑んでくれた。
「環ちゃん、ビンゴ。ちなみに、ストーカー被害に遭ったって女性従業員は私のこと。
当時それで怖い思いをしていた私をそばで支えてくれたのが彼で、恋に落ちたってわけ」