キスはワインセラーに隠れて
樽からグラスにとくとくと注いでもらったワインは、透明感のある赤色。
藤原さんならなんて表現するのかな……とにかく、とってもキレイ。
見た目を楽しんだあとですぐに口を付けようとしたら、藤原さんが私の持つグラスの脚をつかんで、それを制した。
「……お前な。香りをかがないでどーする」
「あ、す、すいません!」
恥ずかしい……
このワインを作っている小川さんにも失礼だったかなと思ってぺこりと頭を下げると、彼は「いいんですよ」と優しく微笑んだ。
「マナーやなんかを気にしすぎてワインを楽しめないのは損ですから。お嬢さんの飲みたいように飲んでください」
「お、お嬢さん……? あ、あの俺っ」
「タマ。いいから早く味わえ。時間が経つと風味が変わる」
……もう。そこは否定させてよ!
仕方なくグラスを鼻に近付け、香りを嗅いだところで藤原さんが聞く。
「どんな香りがする?」
「…………ブドウ」
「馬鹿、当たり前だ」
うう、呆れられてる……
そりゃそうか。ブドウの香りがするなんて、わざわざ嗅がなくたってわかることだもんね。
「次はグラスを回して、ワインを空気に触れさせてからまた嗅いでみろ」
「はい………あ、なんだろ。さっきよりも色んな香りがする」
「それがわかればまぁまぁだな。じゃあ飲んでいいぞ」
いちいちエラそうなんだから……。
ちらっと藤原さんを睨んでから、ワインをひとくち口に含んだ。